FT-ONE について    改良又は改造  外観写真  独自の回路方式

1981年12月発売の八重洲のこの機種は、一説には、最高級の品質の無線機を最高級の回路で構成した、と言われています。
凡そ40年前の機種ですが、現在でも立派に通用する色々な機能を有しています。しかも受信も送信もゼネラルカバー。
しかし流石に作りは旧型無線機そのものです。

本機については詳細な解説が殆んど無いです。又、付属のマニュアルを読んでも分からない箇所が沢山あります。
例えば、PLLユニットやコントロールユニットの回路図が添付されていないばかりか、各ユニットの動作説明が省略されています。
和文の取説では、ある筈の動作説明の章が全くなく、操作説明の次にいきなり簡単な(触っても良い箇所の)保守調整となっています。
当時の技術情報の流出を嫌った為でしょう。
しかし、英文のマニュアルには少なくとも受信機能と送信機能に分けて動作説明の記述があります。
それでも、止むを得ず海外からいわゆるテクニカルマニュアルを取り寄せても回路図を見て分かる範囲以上の説明はありません。
FT-901DMなどの取説に比べるのは少し酷ですが、一寸物足りない気がします。

入手した時は、PLLが不安定でロックが外れる現象や受信出来ない周波数帯があり、解析の為に一部の回路図を依頼したら、さすがに現在では機密ではなくなった為か、短時間で入手出来ました。



1.FT-ONEの正面です。
先ず目に付くのは
当時としては珍しい大きな二つのメーターキーボードの配置でしょう。

機能的には、現在では当たり前になったアップコンバージョン方式、中間周波増幅段におけるWIDTH/SHIFT制御多段に跨るフィルターの設置VFOのデュアルメモリーや、フルブレークインPINダイオードによるRFアッテネータとBPF及びバイポーラトランジスターアンプを組み合わせたRF部SW電源の採用などがあります。この他にも特徴的な箇所が幾つかあります。

主要な部分がプラグインユニット形式である事は珍しくはないですが、シャーシ裏の配線が綺麗です。他機種と違って配線に細い線材を使い綺麗に束線してあるからでしょう。

尚、この無線機はモービル運用も考慮した可搬型で、外部直流電源も使用可能ですが本体は結構重量があります。約17Kgで外形も大きめ

2.1 操作マニュアルを読むだけでは分からない事項
ここで言う操作マニュアルとは添付されていた和文の取説の事ですが、DLした英文の技術資料を読んで初めて判明した事項です。

その1.送信と受信の周波数範囲の変更設定:コントロールユニット上のジャンパー線で設定を変更可能です。

受信周波数範囲を150kHz〜30MHzか11mバンドを除いた範囲とするかが切り替え設定できます。
送信周波数範囲は1.8MHz〜30MHzのどこでも(?)、ハムバンドを含む1MHz幅全部、又はWARCバンドを除くか11mバンドを除くか等の五つの選択肢から設定可能です。

そこで、調査すると、本機は受信は150kHz〜30MHz、送信は短波帯の全ハムバンドを含む1MHzずつとなる設定です。
即ち、送信周波数範囲は、1.8-2MHz/3-4MHz/7-8MHz/10-11MHz/14-15MHz/18-19MHz/21-22MHz/24-25MHzと28-30MHzです。
これは最初から設定してあった様で、後から改造設定したのではない様に見えます。要するに国内仕様と言う事です。

その2.性能向上又は安定化の為の改造指示 受信時の安定度向上の為の改造と言う事です。
中間周波増幅段のWIDTH回路のVXOの定数変更とSHIFT回路のVXOの定数変更があります。
両方とも実施済みでした。

2.2 FT-ONE独自の回路方式
上の方で記述した特長的な回路方式は現代では当たり前、当然具備しているものばかりですが、実際には文章だけでは分からない工夫がしてあり、これらは実際に機器の内部を観察するなり技術資料を読まなければ見付かりません。
そこで判明した工夫の幾つかを次に紹介します。

その1.高周波増幅段の工夫
高周波増幅段は、幾つかのBPF群、PINダイオードによるアッテネータバイポーラートランジスタによるP-Pアンプがこの順番に配置してあり、信号は送受に関係なくこの順番に通過します。これが第一の工夫。
受信機能だけから言うとアッテネータ、BPF、そしてFETのアンプとなるのが現代では普通でしょう。
ところが、このFT-ONEでは異なる回路方式と素子、そしてそれ等の使い方で他機種と大きく異なっていて、次の通りです。

周波数範囲に合わせて10個のBPFを受信時のトップに配置し、その次に電子的に制御可能なPINダイオードアッテネータを置き、減衰量は、受信時には手動(パネル面から)でも、自動でも(通常のAGCと連動して)制御可能とし、送信時にはBPFを選択する信号で減衰量を加減する方式(実際はプリセッタブル)を採用しています。
そして、次の段の2N4427のP-Pアンプと組み合わせ、受信ではフルゲインで動作し受信特性を改善でき、送信時ではPAの入力レベル(100mW)を適切に設定出来ています。
従ってBPF-ATT-AMPの順でなけれならず、通常の無線機の様に可逆ではなくストレートと言う訳です。苦肉の策ではなくスマートなやり方だと思います。
下図はその部分のブロックダイアグラムです。

青線が受信時でそのまま右へストレートにMIX回路で周波数変換してハイフレのIF信号を取り出します。
送信時は赤色線の様にIF周波数の信号をMIX段で所定の高周波に変換しBPF-ATT-AMPと通り終段のPAへとなります。
ATTは受信時はAGC信号で制御され 送信時は所定のバンド毎に設定しAMPへ印加され約100mWの大きさで出力されます。
尚 送信時はMIXへ印加する前にALC回路で或る程度のレベルに設定されますが。
RFユニットです。

右半分を占めているのがBPF群です。

真ん中付近に見える2個の黒いリング状のものが2N4427の放熱器です。
ここがアンプ部分で、ATTはその直ぐ右側のシールド板の近くにあります。
上に沢山並んで見えるのがPIN ATTの減衰量をプリセットするVR等です。
その2.贅沢なクリスタルフィルターの使い方
FT-ONEでは、周波数変換する度に4ポールから8ポールの各種のクリスタルフィルターを置いています。
なんと、受信で最大4箇所でフィルターを通過する事になります。

先ず、73.115MHzの第一中間周波数段ではポストアンプの直ぐ後に4ポールでBW=20kHzのものを置いてあり、これは送信の場合にも可逆的に使っています。又、FMの場合の唯一つのフィルターとなります。
次に、第二変換で8.9875MHzに変換した後のノイズブランカーゲートの前にここでも4ポール、BW=20KHzのフィルターを置いています。

そして、メインの中間周波増幅段では、8ポールでSSB/CW(M)/CW(N)/AMの各モードに対応したものを選択可能としています。
更に、WIDTHコントロールの10.76MHz段で、6ポールのSSB/CW用のフィルターを選択する、と言う構成です。
この様に受信の場合は常に4個のフィルターを通過します。

SSB送信の場合には、BMの出力に6ポール、BW=2.7kHzのフィルターを配置して片方のサイドバンドを取り、COMP回路の後にもう一度標準のSSBフィルターを通り、73.115MHzに変換の後、20kHzのフィルターを通過しますから合計3段です。

これらのフィルターの配置と選択切り替えの構成は現代では至極当たり前の様ですが当時は相当贅沢な使い方だったでしょう。

当初入手したFT-ONEには8.9875MHz用のSSB/CW(M)/CW(N)のフィルターが実装してあり10.76MHz用はSSB用だけでした。
上の画像が歯抜けになっているIFユニットです。
オークションや中古店から抜けていたフィルター、AM用と10.7MHz段のCW用を入手して左の写真の様に取り付けてIFユニットはフル実装になりました。

持っているからと言って使いこなしている訳ではありませんが。
所有する事の喜び、と言い訳しておきましょう
その3.AC電源系統
メインの直流電源にはSW電源を使っていますので100W出力の機器としては電源が占めるスペースは極めて小さいです。

又 FT-ONE独自かどうかは分かりませんが、電源の入り切りが少し違います。
即ち、小電力の+13.5V電源を用意してあり、これは交流電源でも直流電源でもプラグを交換してどちらでも有効で、しかもスイッチを経由していませんから常に電源供給状態となっていて常時通電状態です 実は この電源が後で役立つ事になりました。
そして、これを一個のリレーの電源とし、これをメインのパワースイッチで入り切りしています。
リレー接点は3組あり、一組をメインのSW電源の入力を制御し、他の二組をそのDC電源出力の入り切りに使っています。
この方法で、メインのスイッチが他のトグルスイッチと同じ華奢な物で済む事になります。

尚、機器の殆んどは+13.5Vから幾つかの定電圧安定化回路を通して動作させていますが、唯一のマイナス電源は簡単なDC-DCコンバータから-8Vを作って配分して使っています。